1970⇒1979

シンドバッド 虎の目大冒険(1977)

"SINBAD AND THE EYE OF THE TIGER"
アメリカ

[Staff]
制作:チャールズ・H・シュニア
監督:サム・ワナメイカー
脚本:ビバーリー・クルス
撮影:デッド・ムーア
特撮:レイ・ハリーハウゼン
音楽:ロイ・バッド
配給:コロンビア・ピクチャーズ

[Cast]
シンドバッド・・・パトリック・ウェイン
ディオン・・・タリン・パワー
魔女ゼノビア・・・マーガレット・ホワイティング
ファラー姫・・・ジェーン・シーモア
メランシアス・・・パトリック・トラウトン
ラフィ・・・カート・クリスチャン
ハッサン・・・ナディム・サワラ
マルーフ・・・サラミ・コーカー
カシム王子・・・ダミアン・トーマス

[Story]
 シャロックの都に着いたシンドバッドは、ファラー姫との結婚の許しを得るため、姫の兄カシム王子に会いに行く。しかし、何故か都には消灯令が敷かれている。シンドバッドは近くのテントで夜明けを待つことにするが、そこで炎の中から現れた3匹のグールに襲われる。グールを倒したシンドバッドはファラー姫からカシムがまだ王位についていない事を教えられる。ふたりの継母にあたる魔女ゼノビアが、息子のラフィを王位につけようと、カシムに呪いをかけたのだ。カシム王子が病を患っているとだけ知らされたシンドバッドは、覆いをかけた檻を船に乗せ、ファラー姫と共にカスガルの隠者メランシアスを探す航海に出る。メランシアスなら呪いを解くことが出来るかもしれないからだ。魔女ゼノビアと息子のラフィは、半人半牛ミナトンが操る鉄の船に乗り、シンドバッド一行の後を追う。航海中、シンドバッドは檻の中にいるのがヒヒである事を知る。ファラー姫の話によれば、そのヒヒこそカシム王子の変わり果てた姿だという。カスガルに着いたシンドバッド一行は、メランシアスと娘のディオーネを探し当てる。メランシアス老人は、世界の果てにある氷の国への案内役を引き受ける。その血でヒュペルポレオスの古代の力を見出せば、王子を元に戻せるかもしれない。一方、手の平サイズに縮んだゼノビアは、シンドバッドの船に忍び込んで行き先をつかむ。ヒヒの姿をしたカシムがゼノビアに気づくが、鳥ほどもあるスズメバチがメランシアスを襲っている隙に、彼女は逃げてしまう。一方、シンドバッド達は、氷の原野を徒歩で進まなければならない。一行はそこで巨大なセイウチに襲われたのち、熱帯気候の内陸部で巨大なネアンデルタール人と出会う。ネアンデルタール人のトロッグは、ヒュペルポレオスの心臓部を目指すシンドバッド達を、顔の形をした巨大な石の門に案内する。門を抜けると、奇妙な光を放つ巨大なピラミッドが現れる。一足先にピラミッドに到着したゼノビアは、ミナトンを使って中に侵入する。しかし、その際にミナトンは壊れてしまうとともに、ピラミッド内部の気温が変わり始めてしまう。シンドバッドと一行が到着すると、ラフィがヒヒに襲い掛かる。両者はもみ合い、ラフィが命を落とす。ヒヒはケージ乗せられて光源の中に運ばれ、カシム王子の姿に戻る。神殿の気温が上がったせいで氷漬けになっていたサーベルタイガーが蘇る、邪悪な黄色い目をカット見開く。ゼノビアがそのサーベルタイガーに乗り移り、シンドバッド達に襲い掛かる。壮絶な戦いの末にサーベルタイガーがトロッグを殺す。シンドバッドはサーベルタイガーの息の根を止め、ゼノビアを滅ぼす。シンドバッド、ファラー姫、メランシアス、ディオーネは、シャロックに戻り、王位についたカシムを祝福する。
(出展:『レイ・ハリーハウゼン大全』河出書房新社)

[Text]

 前作『シンドバッド黄金の航海』(1973)の大ヒットを受け、同作公開中に本作の制作がスタートした。「魔法で猿に変えられた王子」は『黄金の航海』で検討された設定の一つだったが、エピソードを盛り込みすぎたため同作では見送られ、本作のプロットとして採用された。また、王子の悲壮感をより一層際立たせるために猿から比較的醜いヒヒに変更された。

【登場する怪物】
・ヒヒ 
・グール
・ミナトン
・大蜂
・巨大セイウチ
・トロッグ(独角原人)
・スミロドン(サーベルタイガー)

 登場する怪物たちはこれまでの神話系の怪物から、先史時代の生物が中心となった。シリーズ映画にありがちなマンネリズムを回避するため、「前作と同じような映画にしてはいけない」というコンセプトの下で制作されたという。
 ヒヒとトロッグ(独角原人)のアニメートのクオリティはその緻密性において評価が高いが、ミナトン、大蜂、ゼノビアがカモメに変身する特撮は幾分簡易的に作られたため、ファンからの評価はいまいちのようだ。後にハリーハウゼンは時間的制約があったことを回顧している。事にミナトンはモデル・アニメーションと着ぐるみの併用で撮影された。スーツ・アクターはスターウォーズ・シリーズのチューバッカで有名なピーター・メイヒュー。本作がメイヒューの俳優デビュー作となった。

 賢者メランシアスに扮するはイギリスの人気俳優パトリック・トラウトン(2代目ドクター・フー!)である。ハリーハウゼン映画では『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)に続いて2本目の登板。また彼はハマー・ホラーでもおなじみの顔でもある。
 「アルキメデスは親友だった」と自称するメランシアスは、登場人物の中では最も現実主義的な錬金術師(科学者)として描かれる。「古代の数学者は魔法使いに対抗する術を心得ていた」としてアルキメデスが開発した戦争兵器に言及しており、特にローマ艦隊を太陽光と鏡でせん滅させた「アルキメデスの熱光線」を意識しているであろう、ろうそくの火を高圧エネルギーに転嫁する仕掛けをシンドバッド達に披露。その知識と能力を惜しげもなくひけらかし、嬉々とする俗物的側面を持つところが楽しいキャラクターである。